1月の法話集 ~苦労を人に見せぬ人~


”残りもので心苦しいのですが”と言いながらたくさんの花を届けてくださったのは、花屋さんの息子のO君でした。仏さまの花が必要だったので大助かりでした。お礼を申してお茶を出しますと、O君が語り始めました。
「和尚さんね。うちの花店もおやじ限りとなりそうです。跡継ぎがいませんから・・・」
びっくりして
「だってO君、君がいるじゃないか!」
と問い返しました。するとO君は即座に、
「いいえ、私は継ぎません。あんな苦労の多い商売、まっぴらですよ。花の並んでいる店頭を見ている人は、花屋の商売ってなんときれいで楽しげな商売だろうと思うでしょう。ところが、店頭のきれいさと大違い、裏で働くものは、大変苦労しているようです。冬などは、冷たい水と戦いです!」
O君の訴えが終わるのを待って語りかけました。
「O君、この世で苦労もせずに生きて行かれることってあるだろうか。人間が苦労して行くのは当たり前のことじゃよ。その苦労を見せないで自らの仕事に打ち込んでいる人もたくさんいるよ。その苦労を人に見せぬ人が、人から見て本当に価値ある人間ではないだろうか。自分が苦労したことによって、その幾倍も人に喜んでもらえるなら、こんな幸せなことはないよ。まあ、君の進路に私がどうこう言えないが、よーく考えてみるんだね。」
こんなやりとりがあってから三ヶ月後、例の通り「残りものですが・・・」とO君が花を持ってきてくれました。O君は私の顔をじっと見つめていましたが、どこか、恥ずかしげに言いました。
「あのー、苦労を人に見せぬ人になることに決めましたから!」



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