1月の法話集 ~未知の海へ乗り出す勇気~
農作業で日焼けしたA君が語りかけます。
「親父が畑を全部まかせるっていうんだ。それで考えたんだけれど、漢方薬の草や花を作ろうと思ってね・・・。だけど考えてみたら今から勉強するのも遅いし・・・」
今年、成人式を迎えようとしている若者がなにを気弱なことをと、つい、
「何言ってるんだ!若者なら未知の海へ乗り出す勇気を持てよ!」
なんて、ちょっとキザなことを言って励ました後、こんな話をしました。植物分類学の先駆者として有名な牧野富太郎さんは、高知の小学校を中退した後、独力で植物学の研究に励みます。全国の山野を歩いて植物を採取し、名前を付けた植物だけでも一千種以上にも及ぶという業績を残しているのですから、大学や学会からは一目も二目もおかれ て大切にされたと思っていたのですが、じつは、まったく逆で、その生涯は、学会から白眼視され、冷遇され、貧乏のまま、一生を終えたのでした。では牧野さんが学歴劣等感や貧乏劣等感、あるいは社会的劣等感にさいなまれて淋しい生涯を送ったか、と言えば、これまたまつたく逆なのです。牧野さんは言っています。
「この分野なら誰にも負けないぞ、と強い自信を持っていたし、好きなことに熱中して生きてきたから、劣等感なんてすっかり忘れてしまいました。それに、未知の世界を自分の手で切り開く喜びがありました!」
A君は、漢方薬の材料となる草花を作るというすばらしい仕事に挑戦しようとしています。専門知識もなく、思いつきだけのようで不安だといいます。しかし、未知の世界を切り開いた人だれもが、この一歩から踏みだしたんです。思わず、彼の背中を次の一歩を踏み出させるようにドーンとたたいてやりました。
A君、ガンバレ。
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