1月の法話集 ~お通夜とわんぱく坊主~


先日、九十三歳という高齢で亡くなられたおばあさんのお葬式に伺い、家族の方から、こんなことを聞きました。曾孫にあたるA君は小学四年生。おばあさんが元気なころ、わんばくぶりを発揮して、散々苦労をかけたのでした。
お通夜のことです。おくやみに釆た人たちも帰り、家族だけになってみると、A君がいないのです。お腹もすいているだろうにと家族がA君をさがしますと、なんとA君はおばあさんの柩の側で何かをしています。A君はおばあさんにマンガの本を読んであげているのです。そういえば、おばあさんは子どもたちが持って帰るマンガを一枚一枚ゆっくりとめくり、ニコニコしていました。A君は、そんなおばあちゃんのことを思い出してか、一晩中マンガを読んであげているのです。A君の声が届いているかのようにおばあさんの顔はおだやかです。今一つ、時折、A君が何かをします。末期の水とでも言いますか、筆を使って唇を水でぬらしているようです。ところがA君が口元をぬらすのは水ではなくて、お酒だったのです。亡くなるまで一日と欠かさず、ゆったりとお酒を飲んで、時折、唄をうたい出すおばあちゃんだったから、お酒を飲んでもらったんだというのです。A君を見ているとおばあさんが亡くなったことをまだ知らないでいると思えるほど、おばあさんの側から離れません。ずいぶん叱られたおばあちゃんだったけど、A君にはなくてはならない人だったに違いありません。わんばく坊主らしく、じつと涙をこらえているA君の心が、この二つの行いから分かります。A君のお通夜、必ずおばあちゃんに届いているはずです。深く強く結ばれた家族の絆を感じずにはおれません。



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