2月の法話集 ~自己の運命に腰をすえる~


古い話ですが・・・・・。昭和四十二年十一月、ひとりの歌人が死刑によってこの世を去りました。その人の名は島秋人。新聞などに投稿し、その歌のすばらしさは、獄中の歌人として世に知られました。そして多くの人々の減刑嘆願もむなしく、三十三歳で死刑になった歌人です。島秋人さんは戦後大陸から引き揚げ、家の貧しさから東京で浮浪児となりました。その後、ポン引き、盗み、そして空き家に放火して、念願の刑務所行き。四年の刑を終えて帰ると、すでに頼る人もなく、途方にくれて農家の軒下にしゃがんでいるところを。「ドロボー」と叫ばれて逃げ出しました。そのまま逃げておれば何事もなかったかもしれません。魔がさしたのか、とって返した島さんは、その農家に入り、二千円を奪い、はずみでその家の主婦を殺してしまいました。死刑の判決。若き死刑囚の心に和歌をよむ楽しみや喜びを教えたのは、中学時代の絵の先生夫婦でした。貧困、無学、罪人、人としてこれ以上落ちえないどん底で、島さんは和歌の創作にめざめます。それは自己の運命に腰をすえることでもあったのです。腰をすえた時から、自己を反省し、死刑囚でありながら、満ち足りた人生と思うようになったのでした。島さんのよんだ歌です。

幸せと覚ゆる度に優しさの
ふかまりて来てすべて足りゆく

他者と自分とは比べようがありません。自己の運命に腰をすえる、その時から道が開けてくるのです。



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