2月の法話集 ~オール・オア・ナッシング~


脳の病気で入院した友人を見舞いに行った時、となりに二十三歳になる青年M君が半身不随でベッドに横たわっていました。聞けば大学一年生の時、自転車部に入り、スピードを出しすぎて転倒。頭を打ってそのまま、この病院にいるのです。青春時代をベッドで過ごさねばならない、つらさ、くやしさはいかばかりかと思ったのですが、本人は意外にカラッとしていて、周囲の人を笑わせています。朝夕に行う歩行訓練はたいへんつらいらしく、ベッドにもどるとグッタリしています。 お父さんの話によると、倒れた時は全身マヒで植物人間のようだったそうで、それが歩行器やつきそいがあれば歩けるまでになったとのこと。本人の強い意志が伺えます。こんなことがありました。同室にM君からすれば、ずーっと軽い病状のS君が入ってきました。このS君、すっかり落ち込んでいて、目を離せば自殺でもしかねないほどです。声をかけても一言も言いません。ある日の朝食の時、牛乳びんのフタがあかなくてS君が困っています。そこへ不自由な身でのり出して来たのはM君です。M君はふるえる手で牛乳のフタをあけてやったのでした。その時小さな声がしました。
「ありがとうね」
S君はふるえる手で牛乳ビンをしっかりと握りしめてうまそうに飲みました。その日から二人の心はかよい始めました。S君がM君にたずねました。
「なぜ、そんなに明るくしていられるの。」
と。M君が答えて言いました。
「オール・オア・ナッシング、やってみなけりや分からないさ。」
この日から、S君とM君は、"オール・オア・ナッシング"を合言葉にして、病気に立ち向かうことになりました。



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