2月の法話集 ~同じ環境のなかでも~
高速道路を走るバスに乗っていました。暖房がきいて、乗客はみんなコックリコックリと舟を漕いでいます。どれほどたったころでしょう。見ると雪が舞っています。やがて雪は激しく降りだしました。突然若い男性が、「どうなるんだ、遅れると困るんだよ。このままだと、何時ごろ着くのかね!」と運転手さんに詰め寄っていきました。自然のなせるわざですから、運転手さんを責めてもどうすることもできません。
「あまり遅れないと思います。幸いスノータイヤをつけていますから心配することもありません。」
それからというもの若い男性は、運転席のそばを離れず、イライラの表情を顔いっぱいに表して立っているのです。一時雪が小降りになり、銀色の山々がその雄々しい姿を見せました。そのとき、中年の女性の涼やかな声がしました。
「まあ、きれいだこと、このバスに乗ることができてよかったわ。こんなに美しい雪景色を見ることができたのですから……。ありがたいこと……。」
この声につられてか、他の女性たちからも声があがりました。
「ほんとうよね、こんなことでもないと、あっという間に通り過ぎてしまって美しい雪の山を見るなんてできないわね。幸運だわ!」
狭いバスのなかです。同じ環境のなかにさまざまな人がいて、一人一人違う心があります。ある人はイライラと時を過ごします。ある人は見る眼を換えて美しいものに感動しています。どんなときにも、ちょっとした眼の向け方、心の持ちようによって幸せになれるんだなあと感じたことでした。
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