3月の法話集 ~南無病気大菩薩~
"苦難に遭ったら、そこから逃げるな"と教えられても、なかなか私たち凡夫は腰がすわらず、どうしても逃げよう---とするものですね。文政十一年(一八二八)十一月、越後三条の町に大地震があり、多くの人々が亡くなりました。実はこの町に良寛さまがおいでになるので、山田屋の主人が大変心配してお見舞いの手紙を差し上げたのですが、そのご返事には、"災難にあう時節には、災難にあうがよろしく候。これ災難をのがるるの妙法にて候"とありました。さすがに良寛さまです。私たちも大きい小さいの差はあるにしても、苦難に出会ったら "苦難にあう時節には、苦難にあうがよろしく候。これ苦難をのがるる妙法にて候"の心構えでのぞみたいものです。それには、日ごろからこの覚悟を練っておかねば、いざというときぐらつくのですね。
白隠(はくいん)というお坊さまは、何と地獄のような苦しみに遭ったら地獄大菩薩さまにめぐり合ったと受けとめて、"南無地獄大菩薩"と礼拝しなさいと教えられていますが、これまた苦難をどんと受けとめて歩む、堂々たる生き方で学ばねばなりません。
この話を長い間入院している友人に話したことがあり、次の見舞いに行って驚きました。ベッドの頭の上に、"南無病気大菩薩"と墨で書いて張りつけているではありませんか。彼いわく、
「あせってみたとて、私の病はいますぐにどうなるものでもない。私の生命、南無病気大菩薩さまにおまかせしたよ。」
何だかずいぶん顔色がよくなったように見えました。良寛さまも白隠さまも、積極的な苦難への対し方を教えてくださっています。
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