3月の法話集 ~青山(せいざん)もとより動かず~
近所のAさんが久々にやって来ました。この春、部長に就任したので、さぞかし、張りりっていることと、心良く迎えました。ところがAさんの顔があまりさえません。聞いてみると、あれだけあこがれていた管理職になってみると、頭の痛いことばかりだというのです。
「上からの命令を実行に移そうとすれば、現場の若い人たちがなかなか動いてくれません。まったく、上と下の板ばさみでしてね。このところ胃が痛くなるばかり。お医者さんはストレスだというだけ。ふと思いついてご住職なら良い知恵をと思い、伺いました。」
いやはや、行きつくところ、お寺への相談で、それも仏事の相談ではなく、心の問題というのです。そこでAさんに問いました。
「Aさん、Aさんは、上と下との間を行ったり来たりしているというのですね。」
「そうです。こっちの意見とあっちの意見をまとめようとして、往復しているばかりなんです。」
それを聞いて、私はすぐさま申しました。
「それをすぐにやめなさい。どんな命令でも、自分の力で成しとげる覚悟を決め、部下にはよく説明をし、断固やりぬくことです。リーダーには非難中傷はつきものです。その一つーつにとらわれていては何もできません。仏教の言葉に『青山もとより動かず、浮雲去来するに任す』というのがあります。あなたは青山です。どーんとしておればよいのです。青山の前を雲がとびま す。つまり、あることないことの中傷などです。青山は、いちいち雲にとらわれず堂々としています。さあ明日からは『片山もとより動かず』の心でのぞんでく ださい!」
私の話を熱心にメモを取っていたAさん、ホッとした顔で帰って行きました。
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