3月の法話集 ~みんな仏さまなんだよ~


かつて網走の刑務所が極悪非道の囚人を収容する監獄としておそれられていた時代のことです。明治維新生き残りの豪僧といわれた元峰禅師のところへ依頼があり、囚人に向かって説法をとのこと。九十歳を過ぎた身でありながら、禅師は網走へ飛んで行き、広い講堂をうめつくした囚人の前に立たれたのです。多くの眼が禅師の第一声を待っています。しかし、声がありません。しばらくして、禅師の口をついて出たのは、
「あんたがたはな、みんな、仏さまなんだよ。ここは、仏さまがおるところじゃないよ。」
その声は涙にむせんではいましたが、大きな声でした。
「みんな仏さまなんだよ。」
お坊さんの説教が始まると思っていた因人たちはシーンと静まりかえりました。壇上にはまだ、元峰禅師が立っています。手をあわせ、目にいっぱいの涙です。あちこちで、大の男が眼がしらを押さえています。すすり泣きも聞こえます。やがて禅師は、深々と頭をさげて、壇上を去リました。
仏さまの種を宿して、この世に生をうけたはずの人々がなぜここに……。元峰禅師の目に映ったのは、まだ仏さまの種をやどしたままの、仏の子たち……。私たちも、仏さまの種を宿しています。みんな仏さまになれるはずです。



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