3月の法話集 ~他人を喜ばす喜び~


お釈迦さまのお弟子にアーナンダという方がおいでになります。アーナンダさまはお釈迦さまに二十五年間も仕え、お釈迦さまのお言葉を一字一句覚えておられ、後世に伝えられたというほど、頭のよいお方でした。これほど優れたアーナンダさまでしたが、お釈迦さまが生きておられる間には悟りを開くことができなかったといわれます。なぜでしょうか。お釈迦さまのお言葉を聞き取ることも、修行をすることもただ私のため、他の人々はどうでもいいという自己中心的な生き方ばかりされるアーナンダさまだったため、いわば知識ある悪魔になってしまわれ、いつまでも悟ることができなかったのです。
ある日、アーナンダさまは鏡の前に座ってアッと驚かれました。鏡のなかに、餓鬼がいるではありませんか。けれどよく見るとその餓鬼はご自分自身であったのです。このとき、アーナンダさまは気づかれたのです。"ああ、私は自分のことばかりしか考えない餓鬼になりさがっていた。何一つ、他の人々のために尽くしたことはない。今日からは、食物や教えを施して他の人々を喜ばせることに心を尽くしていこう"
やがてアーナンダさまは、物があれば物を他の人々に分け、お釈迦さまからお聞きした多くの教えを人々に伝えていかれました。申すまでもなく、人々は喜びます。アーナンダさまを多聞第一(たもんだいいち)といって尊敬します。いつしか、他の人々を喜ばせているアーナンダさまが、実は他を喜ばす喜びに満たされていたのでした。私たちも、ともすると若き日のアーナンダさまになりがちです。他を喜ばす喜びのあることを心に刻んでください。



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