3月の法話集 ~道を開く二つの言葉~
一人の若者を成田国際空港からアメリカヘ送りました。未知の国へ旅立つ若者の顔には不安と晴々とした思いとがにじみ出ていました。「男の子だ、ガンバレよ」見送りに来た友人たちの激励の声もさわやかです。しかし、いま意気揚々と旅路へ向かう彼の三ヵ月前を思うと今日の日がまるで嘘のようです。
彼は二年間の浪人生活までして受験した大学に入ることができず、もうオレにとって人生はないなどと、すっかり沈んでいました。それはひどいものでした。だれにも会わず、夜行性動物のように深夜どこへともなくさまよい歩くのでした。彼のことについて相談を受けたとき、こんな言葉を思い出しました。どこのことわざでしょう。
"神は一方の扉をお閉じになると必ず他の扉を開いてくださる"
わが道はもうふさがれてしまったのだと失望することはない。必ず神さまは、どこかにわが行く道の入口の扉をちゃんと開いて待っていてくださるのだから……。いい言葉ですね。また、こんな言葉も思い出しました。
"百尺竿頭(ひゃくしゃくかんとう)一歩を踏み出す"
百尺の竿を歩いて、いよいよ百一尺目を踏み出すと、そこは千尋(せんじん)の谷かもしれない。いや美しい花園かもしれない。いずれにしても勇気を持って一歩を踏み出さねば、どんな道も開けないという仏さまの教えです。
「大学は日本だけじゃなく、世界どこにでもある。もっと大きくはばたいてみないか」とのひと言が彼の心を動かしました。アメリカの日系人の方々のお世話 で、ハワイ州で勉強できるようになったのです。まさに扉は開かれておりました。そして彼は、百尺竿頭一歩を踏み出したのです。ときに出口なしの状況に出くわす私たちの人生です。そんなとき思い出してください、この二つの言葉を。
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