3月の法話集 ~六年目の卒業式~


この春、A君は六年間かかって高校を卒業しました。病気のためです。歳下の友だちもどんどんA君を残して卒業していきました。六年目の春。卒業証書を渡すから登校するようにという通知が届きました。
その日は激しい雨でした。お母さんと一緒に登校したA君は、校長室に案内されました。
〝ああ、校長室で一人、校長先生から卒業証書を渡されるんだな〟
と思いながら校長室へ入ったA君とお母さんはびっくりしました。校長先生の机を囲んで、すべての先生が立っておられたのです。どの先生も卒業式にふさわしいきちんとした服装です。やがて、校長先生の卒業証書を読まれる声が朗々と響き、しつかりとA君の手に卒業証書が手渡されました。
「A君、六年間よく頑張ったね。ほんとうは昨日全校生徒のなかで渡したかったが、君の病気のことを考えると長時間の卒業式は無理だと思って今日にしました。A君、ほんとうにおめでとう! さあ、これからだ、頑張るんだぞ!」
先生たちから大きな拍手が起こりました。A君の目から、お母さんの目から大粒の涙がボロボロとこぼれました。何という感激でしょう。ところがさらに次の感激があったのです。
校長室を出たA君を待っていたのは、廊下の左右に並んだ同じクラスの生徒たちがつくった人垣でした。「A君おめでとう」「A君頑張ったね!」、そして歌が始まり、大合唱となりました。若者によく歌われている長渕剛の「乾杯」という歌です。友だちとすばらしい歌に送られてA君は卒業したのでした。みんな仏さまです。



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