4月の法話集 ~馬頭観音に出会う~


野道を歩いてると馬頭観世音という文字が書かれた石仏を時折みかけます。今は自動車が通るたいへん良い道になっていますが、昔は馬車一台がやっとのせまい道だったのでしょう。事故もおきたに違いありません。谷底へおちた馬の霊を供養するために馬頭観音がよくたてられたようです。
先日、近くの町で道路を広くすることになり、困ったのは、昔からある馬頭観音の石仏のことでした。
若い人々は、どこかのお寺にあずかってもらったらと意見を出したのですが、八十歳をこえた老人が、どうしたも聞き入れません。それもそのはず、二十年ほど前まで、馬喰をしていたのです。老人にとっては忘れ得ない思い出がありました。
雪の日、馬車をあやつっていましたが、トラックとすれちがいに失敗して、川へ落ちてしまったのです。馬車をつけたまま川へ投げ出されたからたまりません。老人は流されて行きます。そのときです。老人の背の肩かけをグイとつかんだものがあります。なんと日ごろ共に仕事をしている馬でした。馬は一心に老人をくわえて、水の中でもがいています。老人は、どうにかこうにか、馬の背につかまり、車へと移り、浅瀬へたどりつきました。そして一息入れて水面をみると、馬は激しい流れの中に消えていくところでした。
それから幾日か後、この場所に、馬頭観音がたてられ、毎日、花と水、そして線香のかおりがたえませんでした。
老人は青年たちに訴えました。
「あれは、観音さまでした。馬頭観音さまです。今もここを通る人や自転車の安全を見守っていてくださってますのじゃ。ここにおまつりしてください。・・・・・。」
こうして、馬頭観音は、今までどおり同じところにおまつりされています。



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