5月の法話集 ~知識のある悪魔~
お釈迦さまのお弟子の中に多聞第一とたたえられたアーナンダというお方がいらっしゃいます。多聞とは多く聞くと書きますが、つまり、お釈迦さまの申されたこと、みおしえを全部覚えておられた方で、まるでテープレコーダーのような頭の持ち主でした。現在、お釈迦さまのみおしえであるお経が伝わっているのは、このアーナンダさんのおかげと言われるくらいです。
しかし、このようなアーナンダさんであったにもかかわらず、お釈迦さまご存命中にさとりを聞くことができなかったと伝えられています。
それどころか、餓鬼どもに苦しめられたというのです。このことは何を意味しているのでしよう。
アーナンダさんは、お釈迦さまのお言葉を一字一句誤りなく伝えることのできるお方ですから、たいした記憶力です。しかし、餓鬼がアーナンダさんに申します。
「アーナンダ、お前の寿命はあと3日しかないぞ! そして、おれたちと同じ餓鬼道におちて苦しむぞ! けれど、もしお前がおれたちに食物とおしえを施してくれるなら、お前は災難から逃れることができよう!」
なぜ多聞第一と尊敬されたアーナンダさんに餓鬼がこんなことを申したのでしょう。
それは、アーナンダさんの態度は、あくまでひとりよがり。聞いたおしえを頭だけで理解し、自分本位の修行ばかり重ねていたからです。食物を施す、みおしえを他の人々とわかちあう・・・などの行いができない「知識ある悪魔」だったのです。けれど真にかしこかったアーナンダさんは、やがてそのような自分にめざめ、さらに深い修行をつんで立派なお坊さんになられたのです。
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