5月の法話集 ~仁王さまは鬼か仏か~


「お寺の門の両脇に恐ろしい顔をして立っているのは鬼ですか仏さまですか?」
こんな質問をいただきました。きっと仁王さまのことでしょう。鬼ではなく仏さまです。正しくは執金剛神(しゅうこんごうじん)と呼ばれる仏教の守護神 で、もともとは一体であったものが、左右に安置する必要から二体としてつくられ、それで二つの王、仁王さまと呼ぶようになったといわれています。
お二人とも忿怒(ふんぬ)の形相、上半身裸です。片手を前に突き出し、一方に金剛杵(こんごうしょ)と呼ばれる武器を持って、何やらにらみつけておいでですねえ。左側が密迹金剛(みっしゃくこんごう)さまで、この門からは一切の魔物は入れないぞと魔物を追い払うお役目です。右側のお方は那羅延金剛(ならえんこんごう)さま。この門をくぐろうとする人々を見つめて、信仰があるかないかを確かめたうえで通ることを許すお役目を なさっておいでとのこと。ですから、ギユッとにらんだ目は、ただ前方をにらんでいるのではなく、門をくぐろうとする人が両方の仁王さまからにらまれる位 置、そこに向けられているのです。
「おいっ! 阿吽(あうん)の呼吸で頼むぜ!」などといいますね。多くを語らずとも、お互いに理解し合うことができて、気持ちがピッタリと合うからともに行動しやすいということです。阿吽の阿とは、人間が目を開いて発する声の最初といわれ、吽は目を閉じて発する声の最後といわれます。左の仁王さまは口を開いて「阿」とおっしやっておられるから仁王像阿形、右の仁王さまは口を閉じて「吽」とおっしやっているから仁王様吽形とも呼ばれます。
ともかく、仁王さまは鬼ではありません。人々の正しい信仰を守るために活躍されている仏さまなのです。



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