6月の法話集 ~悲しいコシカケマン~


東京に秋葉原という町があります。電気製品などの卸会社が集まっていて、品物が安く買えるので有名です。その秋葉原に時計を卸している会社があって、今年も数人の新しい社員が入りました。大手といわれるほどでもない社員三十人足らずの会社です。新入社員の中には地方から上京してきて大学の夜間部に通いながら頑張っている人もいました。
さて、社長さんはある日、こんな話を耳にしました。それは新入社員が、
「僕はこの会社に入ったのは腰掛のつもりなんだ。やがて大学を出たらもっと大きな会社に入ってみせる。それまでの腰掛けさ。」と言うものです。
それを聞いた社長さんは本人を呼びつけました。そうしてこの話を確かめた上で次のように言いました。
「私はね、君のその考えにあながち反対ではないよ。若い人のことだ、むしろ、そのくらいの気概はあっていいだろう。ところが私の心配するのはその腰掛けと いうことだよ。腰掛けというのは、先々の時のために今は仮の生活だ、と考えることだろう。それでは今の君は本物でないことになる。そうした君の考え方が知 らす知らずに習慣にでもなったら大変だ。いつも先ばかり見ていて、一生欲求不満の腰掛け人生を送ることになってしまうね。よく考えてみることだ。」と諭したそうです。
いつも先にばかり目が行って、今日の尊さに気づかないコシカケマン。とくに幸福の実感、ああ幸せだなあと感じる世界は”ただ今”にしか用意されていません。
朝起きたら、よーし、今日もやるぞ。この充実感が結局、未来の夢へつながるのです。



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