6月の法話集 ~ありがとうの言葉~


『法句経』という経典の中に、
「人間として生まれるのは難しいことであり、生まれた以上、やがて死ぬ時がくるが、今こうして生かされていることは、有り難いことだ」
という意味の教えがあります。私たちはふだん、人間に生まれたことを別に不思議にも思わないでしょうが、事によると人間以外の動物や虫けらなどに生まれ ていたかもしれないのです。もし、かりに鶏に生まれていたとしたら、とうの昔に食肉用に処理されていたでしょうね。
そう考えると、いくらこの世の中が辛く苦しくとも、やっぱり人間に生まれてよかったとは思いませんか。そうして今こうして生きてあるという現実は、深く 考えると本当に実に難しいということが分かります。つまり、有るのが難しいということで、「ありがたい」という言葉ができたのです。
私たちの生活を支えてくれているすべての物、たとえば食べ物一つを取り上げてみても、それが極度に不足した場合、いえ、たった一日食事を抜いてみてごら んなさい。考えるのは食事のことだけで、ほかの事は一切手につきません。そして食べ物にありついた時の嬉しさ、有り難さは、表現のしようもないほどでしょ う。
人間の常として、豊富な物に囲まれていると、つい物の生命を粗末にし、その有り難さが分かりませんが、欠乏状態になると、誰もがその稀少価値を大事に し、しみじみとその物の有り難さが分かり、自然に感謝の気持ちがわいてきます。その心を表現すると、ありがとうという感謝の言葉になるのです。
私たちは、決して自分一人の力では生きられませんし、多くの人や物に支えられ、お世話になって生かされていることに気づけば、心はきっと明るく豊かに なって、それはそのまま感謝の生活に直結するはずです。そして、「ありがとう」の一言は、相手の心にも響き、灯をともし、共にさわやかになるでしょう。



6月の法話集一覧表へ戻る