6月の法話集 ~おじいさんの知恵~


歌舞伎の俳優に松本幸四郎という人がいます。テレビのドラマなどにもよく出演します。名優の誉れが高く人間国宝の方です。この幸四郎さんが、こんなことを言っています。
「自分の歌舞伎の芸はもちろん直接の師匠である父親から教わったのだが、本当の大事なところは、よく考えてみると、どうも先々代に仕込まれたような気がする。」
つまり演技の眼を間くような大切なヒントは、おじいさんから伝えられたのですね。これは大変に意味の深い言葉です。
私たちが一生の間に身につける知識などタカの知れたものですから、それを補うためには先祖代々積み重ねてきた深い知恵を知る力がいります。しかも、その力が備わるのは六十歳くらいからだとも言われています。だからおじいさんやおばあさんの教えを大切にしないと、浅い猿知恵くらいしかわからないのです。
お年寄りも教えるべきことは、きちんと教えてあげてください。変な遠慮はかえってよくありません。たとえば年中行事の勤め方などもそうです。お正月やお盆の神棚や仏壇のかざり方などはとても大切な文化活動です。お孫さんの手を引いて教えてあげましょう。挑の節句や端午の節句の迎え方、お盆の精霊さまの送り迎えなど、土地によって独得の風習がありましょう。幼い子どもの心に植えつけられた色々な年中行事の風景は、情深い人間らしい人に育つ貴重な栄養です。それを失ってしまっては、もう日本人でなくなってしまうほど大切なものです。
最近、おじいさんおばあさんと一緒に往む家が増えていますが、大変賢い知恵の表われですね。



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