6月の法話集 ~落ちるところまで落ちなさい~
伊豆の山中に、自然卵の養鶏場を営みながら作家活動をつづける梶大介さんという方がいらっしゃいます。お歳は六十四歳。広島県呉市で生まれ、北九州に移住。そこで小学校を卒業したけれど、十三歳で家出し上京。職業を転々とし、十七歳で戦争へ。十八歳 のとき、ラバウルで生死をさまよいながらも上官から「きさまには阿弥陀さまがついとる、安心せえ」と不思議な言葉をかけられ一命を取りとめたのでした。
生命を取りとめて復員した梶さんでしたが、どうしたことか山谷のドヤ街入り、上野の地下道暮らし、繰り返しのブタ箱生活。もう、落ちるところまで落ちたのです。いく度か身元引受人になってくれたかつての上官も、〝落ちるところまで落ちなさい″とあきれ果てながらも、仏教の本を送ってくれたことが、梶さんの人生に大きな展開を見せることになります。
〝もう落ちるところまで落ちた。こんな私だけれど、仏さまにおすがりしよう。すべてをおあずけしよう"、そんな気持ちが梶さんに起こりました。やがて、お念仏の日々、仏さまにすべてをあずけた仏作仏行の日送りが始まったのです。
伊豆山中。ブヨやマムシと戦いながら、同じような人生を歩む友、落ちるところまで落ちた人々の道場づくり、農園づくり。〝山谷・いし・かわら・つぶて舎〟がそれです。
私たちは人生の途上、いつなんどきどん底へ落ちるかわかりません。意に反して、どこまでも落ちていくことさえありましょう。しかし梶さんは、ある日どん底から登り始めました。その人生は、私たちに大きな教訓を示しています。
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