7月の法話集 ~三人の天使~


地獄に落ちた罪人を裁くのは閻魔大王です。罪人に閻魔さまがおたずねになります。
「お前は人間世界にいたとき、三人の天使に会わなかったか?」
罪人が恐る恐る答えます。  
会いません。もし天使にお会いしていたら、いまごろ地獄へ落ちたりはしませんでしょう。」
「では間くが、杖にすがって歩く老人に会わなかったか? 病気にかかり、寝たきりの気の毒な病人に会わなかったか? 死んだ人に会ったことはなかったか?」
「大王さま、老人・病人・死人ならばいやというほど会いましたが、天使には……。」
「その老人・病人・死人こそが三人の天使であったのだ!」
これを聞いて驚く罪人に、閻魔さまは次のようにおさとしになります。
「お前は老人という天使に会いながら、やがて自分も老いてゆくことに気がつくこともなく、老人はきたないとののしった。
病人という天使に会っても、自分もいつかは病気になるときがくることを思わずに、病人に対してやさしい言葉一つかけなかった。
そして身をもって死を教えてくれた死人という天使に会ったとき、やがては自分も死んでゆかねばならぬ身である、せめて生きている間に少しでもよいことをしようという努力もせず、自分だけはいつまでも生きているように思って、死ということを全く考えなかった。
その報いを受けて、いまお前は地獄へ落ちてきたのだ。地獄へ落ちたからといって、人をうらんではならない。もしうらむのであれば、生前になさねばならぬことをなさなかった自分自身をうらんで反省することだ!」
この話は『阿含経(あごんきょう)』という古いお経のなかに出てくるのですが、とても明快に私たち凡夫へ、老・病・死の逃れ得ぬ大事について教えています。



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