7月の法話集 ~無功徳~


ダルマさんこと達磨大師が、インドからはるばる中国へ渡られたときのことです。ときの梁(りょう)の国の武帝が、達磨大師を招いて質問をいたします。古来からの道教を捨てて仏教信者となった武帝は、自他ともに認めるあつい信仰を持った人でした。
「達磨大師、大変身軽ですがお付きの人は?」
「おりませぬ。」
「お経や書物はお持ちになられたか?」
「いえ、何一つ、一字の教えも持ってきておりませぬ。」
「ほほう。ところで私は長い間かけて、多くの寺を建てたり、たくさんのお坊さまに援助して、莫大なお金を使いました。どれくらいの功徳を得られましょうか?」
「無功徳!」
「無功徳?おお、それはいったいどういうことか。これだけ仏教に尽くしても、わしにはなんの功徳もないと申されるか?」
「ありませぬ。」
あまりにそっけなく”無功徳”といわれて怒る武帝を残して、達磨大師は揚子江を渡り北へと去りました。
達磨大師が申されたこととは・・・、 「あなたのいままでの行いが、見返りを当てにしてのものであれば、真の善行ではありません。真の善行は報いなど求めない、純粋無垢でいちずなものです。あなたがいままでなさってきた、お寺を建て、お坊さまを育てられたそのことが、そのまま功徳になっているのですよ。これ以上何がほしいのですか。」
あつい仏教信者を自認する武帝でしたが、まだ達磨大師のおさとしがわからなかったのです。ともすると見返りを求める私たちです。”無功徳”の一語、味わってみましょう。



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