8月の法話集 ~私が先祖の代表になる~
田村さんは三十代の後半に三人の身内と別れを告げねばなりませんでした。
お母さんが亡くなりました。続いて常日ごろ頼りにしていたお兄さんが、そしてあろうことか奥さんが急病で亡くなったのです。短い間に頼りどころである人々を失った田村さんの悲しみと落胆は言いようがありません。田村さんは、三人の方々の冥福を祈って、供養の日々を送りました。
ある日、お寺からいただいた過去帳を手にとってながめている内に、ずいぶんの方々が過去に亡くなっていることに目を止めました。
「私には、こんなにたくさんのご先祖があったのか・・・・・。この人々すべてが私にゆかりのある人なのか・・・・・」
そう思うと、今まで考えてもみなかった、ご先祖ということが、とつぜん身近な存在になってきたのでした。
「母も亡く、兄も亡く、今私だけが残っている。すると、この先祖の方々に続いて生きているのは私だけじゃないか。田村家の家系の中で生きているのは私だ けだ。なんと、私はすべてのご先祖さまを代表して、この世に生きている、いや生かされていることになるじゃないか・・・・・」
今まで、ご先祖とか、供養とか、お墓まいりとかが無縁であった田村さんでした。それが身近な方々の死をきっかけに日々の行いとなり、考えもしなかったご先祖さまの存在が実感として受けとめられたのでした。
お盆の季節をむかえて、
「私が先祖の代表である以上、心をこめて、ご先祖を、今は亡き両親を、兄を、亡き妻を、迎えたいと思うのです。そして田村家の代表に恥じない生活を、人生を送りたいと思います。」
と田村さんは言っています。
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