8月の法話集 ~鉄腕アトムのお盆~
マンガ「鉄人28号」「鉄腕アトム」などを発表して、大人からも子どもからも慕われたマンガ家故手塚治虫さんが、いつの日でしたかお盆の思い出を語ってくださったことがありました。
「お盆のころ、田舎のぼくの家の座敷に、夜オニヤンマとか大きな蛾がよく飛び込んできました。昆虫採集に夢中だったぼくがつかまえようとすると、お母 さんが『ダメよ、その虫にはご先祖さまが乗っているんだから、そっとしてやりなさい』といつもとめるのでした。
いよいよお迎え火の時間になると、玄関からふすまを開けっぱなしにして、父を先頭にゾロゾロと門へでていき、だれもいないたそがれの空に向かって『いらっ しゃいませ』とおじぎをしました。『おじいさん、おばあさんお久し振りです』と家の中に入っていくお父さんは、ほんとうになつかしそうにつぶやくのでした。
マンガ家になってから、ぼくは『鉄腕アトム』のなかに、”思い出の日の巻き”という話を書きました。亡くなった人そっくりのロボットをつくって、年に一回その家族の家へ訪問させる話です。お盆の日のなつかしさからその物語を思いついたのです。」
手塚さんは、ほんとうになつかしそうに語っておられました。
「その虫にはご先祖様が乗っているんだから、そっとしてやりなさい」というお母さんの温かくやさしい心。
「おじいさん、おばあさんお久し振りです」とめにみえなくても挨拶するお父さん。
こんな両親に育てられた手塚さんですから、あれほど人間味豊かで、動物を愛してやまないマンガを書くことができたのですね。
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