8月の法話集 ~もうすぐお盆~


七月、八月はお盆の季節ですから、お寺へのお参りも多くなります。先日も、昨年お姑さんを亡くされて新盆を迎えるというEさんがおいでになりました。Eさんは、八年もの間寝たきりだったお姑さんを愚痴一ついわずお世話をされた気丈夫なご婦人です。
お姑さんがいよいよ危いということになり、親族の方が集まりました。五人の子持ちであったお姑さんでしたから、お孫さんも入れると大勢の親族です。突然のお客の接待にEさんは大忙しでした。何回もの食事の世話で疲れているEさんの耳にこんな会話が入ってきました。
「お姉さん、もっとやさしく看病してくれたら、あと二、三年は生きられたわよ。」
この声はお姑さんの長女Cさんでした。
「食べたいものも食べず、行きたいとこにも行けず、お母さんかわいそう……。」 これは先日嫁いだばかりの末娘のAさん。こんな声を台所で聞いたEさんの胸は、悲しみでいっぱいになりました。
お医者さんの言葉に、いよいよお別れが近いことを悟った親族がお姑さんのそばに近寄ると、お姑さんがやせた手を差し出しました。その手をだれもが握ろうとすると、お姑さんは"違う、違う"といわんばかりに手を握らないのです。最後に残ったのは長年お世話をしたEさんだけになりました。そっとEさんがお姑さんの手に触れた一瞬、強い力がEさんの手を握り締めました。けれど、それはほんの一瞬のことでした。すぐさまお姑さんの手から力が抜け、それっきりでし た。
あれから一年、Eさんの手の平にはいまも暖かく強い、お姑さんの手の力が残っています。Eさんに申し上げました。
「Eさん、お姑さんは幸せな方でしたね。あなたのおかげで、ほんとうに心おきなく旅立たれたに違いあません。」
さまざまな思いを抱いて、お盆が始まろうとしています。



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