8月の法話集 ~愚かさのままに~
三十半ばを過ぎた男性が相談に来られました。聞いてみますと、「自分は愚か者だということがわかった。」というのです。思わず「ほほう、自分を愚か者だと見極めたとしたら、これは実にすばらしいことですよ。」と申し上げたところ、真剣に聞いてくださいと叱られました。
よくよく聞いてみると、同じ年齢で同じ年に入社した人が、自分より早く出世したというのです。競争心が強い人だけに、その落胆ぶりは相当のもののようです。そして、自分は愚か者ゆえ出世できないと結論を出したとのこと。
「ではあなたは、どうしたらよいと考えたのですか。」と問いますと、「もういやになったから他の職業につきたいと思いましたが、悩んでいます。」というのです。はてさて困りましたが、次のように申し上げました。
「どうしたってすぐ解決のつく問題じゃありませんね。そんな問題に悩むことこそ愚かであって、バカらしいことですよ。だって、先のことなどだれにもわからないのですよ。三年後、大きな仕事をしていまのライバルを追い抜いているかもしれないし、いまのままかもしれない。いいじゃありませんか。
出世したとてそれだけ責任が重くなります。と同時にストレスもふえましょう。ほんとうに愚かなことは、わかりもしない未来を知ろうとして悩むことです。いまのまま、身も心も仏さまにあずけておしまいなさい。他人がそんなあなたを愚か者といったとて、それで結構。愚かさのままに生きればよいのですよ。」
男性の心が少し開かれたようでした。
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