9月の法話集 ~道心の中に衣食あり~
友人N君は、青森県の田舎から東京に出て、コック見習いをやっていましたが、おいしそうに料理を食べるお客を見ている内に。お金があれば、"どんなうまいものでも食える"と思い始めました。それからの日々は"お金があれば、お金があれば"の思いばかり。
ある日、プロボクシングの選手になれば、一夜で大金が入ってくると思いたち、ボクシングジムに通い始めました。心の中は"今に大金を、今に大金を"の、思い一筋。激しい思いは実って、全日本ライト級チャンピオンの座におどり出ました。しかしすでに年齢は二十代の後半。すさまじい戦いに必要なスタミナは下降線をたどっていて、初めての防衛戦で、若き挑戦者に、あっさりと敗れてしまいま した。大金の夢も、後援会まで作ってくれた生まれ故郷の友人たちへ持ちかえるはずのチャンピオン・ベルトも、一瞬の内に消えさりました。
次の朝、彼ははれ上がった顔でやってきました。意外にサバサバしているのに驚きました。彼は言いました。
「オレ、一所懸命、お金追っかけてたけど、くだらないもの、追っかけてたんですよ。負けて、なくしてみたら、分かったんです。本当は、お金って、追いかけてちゃだめなんですね。後からくっついてくるものなんですね。」
この言葉を聞いて、思わず、
「偉い、君はチャンピオンだ、人生のチャンピオンになった」と叫ばずにおられませんでした。そうなんです。真剣に生きる人に、一所懸命生きる人には、ちゃんと、ついてまわるんです。お金や、衣食住が。
最澄というお坊さんがズバリ言っています。
道心の中に衣食あり
お金だ物だという前に、今与えられた仕事に打ちこんで、その道の専門家になりなさい。そうすれば、ちゃんと周りの人がみとめてくれます。そしてやがて自然に、お金も物も入ってくる、つまり生活に困らないほどの人生が与えられるんです。
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