9月の法話集 ~明日を切り開く~


「三度炊く飯さへ強(こわ)し柔らかし 思うまんまにならぬ世の中」
思いどおりに生きてゆくことのむずかしさを歌った道歌(どうか)の一つです。たしかに人生は自分の思いどおりにはゆかぬものっです。むしろ、それが人生かもしれません。おのれを中心としたあらゆる制約が、行く手をはばむ壁が、次々と現れるのが常です。『人生いかに生きるべきか』とか『生き方について』というようなハウツーものの本がブームになっています。仏教が多くの人たちに歓迎されていることもその一つの現われでしょう。
読書や話を聞くことはたしかに、ためにはなりましょう。反省、思索、人生観や価値観の見る眼を養ってはくれましょうが、あくまで、頭の中の問題と答えでしかないのです。
一挙手一投足、言動のすべてが刻一刻あなたの人生の歴史を刻んでいるのですから、あなたの実践にこそ価値があるはずです。
言いかえるなら、競技場のトラックを走っているランナーはあなたです。声援を送り、励ましてくれている応援は応援でしかあり得ません。代走はまかせられないのです。代わりに走った者の記録はあなたの記録にはなりませんし、場合によっては、あなたは失格ということになってしまいます。
厳しきう冷たい響きを持たれるかも知れませんが、あなたがあなたの人生の記録を作るためには、あなた自身があなたの足で走るよりほかありません。不満があっても、悲痛な人生のどん底に陥ったとしても、正々堂々と人生の記録をつくりだすために、明日を、いや命をひらくために、あなたのコースを、ひたむきに走り続けようではありませんか。
山本有三さんの言葉を、お聞きください。

たった一人しかいない自分を
たった一度しかない人生を
ほんとうにいかせなかったら
人間に生まれて来た甲斐がないじゃないか



9月の法話集一覧表へ戻る