10月の法話集 ~仏さまは美術品ではありません~


日本人はこのところエコノミックアニマルなどといわれて、世界の人からあまり評判がよくありません。たしかに新聞や雑誌には、お金もうけの方法がいやと いうほど報じられています。とにかく何でもお金の額で価値判断する傾向にあり、少々さびしい気がいたします。
先日も尊敬する高齢のご住職が、こんな話をして嘆いておられたのです。
ある日、都会からやってきた中年の男性が、お寺の境内に立つ樹齢数百年という杉の木を見上げているので、さぞやみごとな木に出会って感激していることと思い、
「どうです。この杉の樹の堂々とした姿。気持ちいいではありませんか。」
と声をかけますと、
「この木、材木にするといくらぐらいするかなあ。」
という声が返ってきたのです。
またあるとき、社員研修会で訪れた青年たちと早朝の境内を歩いていると、さまざまな小鳥の声が聞こえます。そこで若者たちにひと言、
「小鳥のさえずりは自然の声だ。都会の騒音と違い心洗われるでしょう。」
すると若者たちが申しました。
「自然の小鳥を焼き鳥にすると、うめえだろうなあ。」
ご住職は、この人たちの感覚はどうなっているんだと、すっかり疑ってしまわれたとのこと。そんなところへ、何と極めつけが出たのです。ご法事のあとでご 本尊さまを拝見したいという方々があり、本堂へ案内されました。ほのかなお灯明に照らされて、仏さまの姿が見えました。そのとき、ご婦人の声で「何てすばらしい美術品ですこと。」。
ご住職は思わず「仏さまは美術品ではありません。」と叫んでしまわれたそうです。現代の日本人の心、感覚、何だか心配です。



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