10月の法話集 ~祇園精舎~


「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあリ・・・」 これは『平家物語』のはじまりの文句です。そしてこの言葉は、日本人の無常観をよく言い表わしているとも言われます。
つまり、人の世は花の命にも似てはかなく、また別れることは悲しく淋しい。すべて諸行は無常である、と言うのです。
ところが、今ではそうとばかりは限らなくなっています。わが国は世界一の長寿国となったばかりか、死ぬときはほとんど病院で臨終を迎えるために、死に出逢うことが少ない。そんなことで、私たちは死というものを遠くに感じて、あまりはかないとは感じません。 まさに長寿万歳です。
でも、よく考えてみましょう。人の命のもろさは少しも変わっていません。交通事故で八千人の人が死に、ガンもまだ征服されていません。いつ我が身がはかなくなるかわからないのです。
「無常に耐えて強く生きよう、二度とない今日のいのち」
これは日航機の事故に遭った、つらい遺族を励ますためにつくられた詩です。
二度とない今日のいのちを、精一杯、充実して生かそう、どんなにつらいことがあってもじっと耐えていこう、きっと輝く時が待っているよ、とこの句は一所懸命に励ましてくれています。
お釈迦さまが教えてくださった諸行無常の意味は、この世の中はすべてが移り変わり、流れてとどまることはない。この真理をしっかりと見極めて、こだわりを捨てて生きよ、ということです。
でも私たちは、なかなかそうはいきません。どんなに苦しいときでも、無常に耐えて、いのちを大切にして生きていこうではありませんか。
少しむずかしかったでしょうか。でもよくよく考えてください。



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