10月の法話集 ~上手なお客さまのもてなし方~
二つの諺(ことわざ)をご紹介しましょう。
「風邪とお客さんは大事にすると早く帰る」
あまり後味のよい諺ではありませんが、一面の真理かもしれません。風邪は大事にして寝ていれば早くなおるように、お客さまもあまり丁寧に扱われると窮屈になって早く帰るというのですね。対照的な禅の言葉に、
「門より入る者は家珍(かちん)に非ず」
というのがあります。正面玄関からかしこまって入ってくる者はお客さまであり、やがて帰ってゆく人で家の宝ではないというのですね。家の者や家の者に準 ずるほどに親しい人は、台所口、裏口から「こんにちは」も言わずに入ってくる。さんざん手伝わされたあげくに、台所で残り物、ありあわせを、それもセル フ・サービスで食べておしまい。それでも不足とも思わず、むしろ当然のこととしている。こういう人こそ家の宝だというのですね。
改まったとき、改まったおもてなしをせねばならないお客さまに、こういう態度はまことに失礼なことですけれど、どんなお客さまもわが家の一員として、家 族としてお迎えする、つまりわが故郷に帰ったような安らかさ気楽さを、もてなしの第一番に置くということが大切なことだと思うのです。私のお父さん、お母さん、おじいさん、おばあさんをお迎えするつもり、私の娘や息子、孫を迎えるつもり、そんな気持ちでどんな人をもわけへだてなく迎えたいというのが私の願 いです。
もう一つ、お客さまをおもてなしする上で心したいことは、相手に恥をかかせないということです。イギリスのエリザベス女王主催の晩餐会の席上、初めに出 された手を洗うための水を、インドの国賓がまちがえて飲んでしまいました。並み居る政府要入たちの間に失笑がもれそうになったとき、女王はさり気なくその ボールを取り上げ、当然のことのようにその水を飲まれたといいます。気持ちを楽にしてさしあげるということと同時に、相手に恥をかかせないという心遣いが、お客さまをもてなす上でとても大切なことだと思うのです。
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