10月の法話集 ~顔を合わせてこそ~


一流会社に勤めていたAさんは、よおーし、同じ一度の人生だ、一度経営者になって一旗上げてやるぞと、会社を辞め、退職金をもとに小さな会社をつくりました。会社勤めのころと違い、一国一城の主になったのですから気分壮快でした。
そして業績はというと・・・・・。一流会社の名前で仕事をしていた時と違い、電話で商談の面会を申し込んでも会ってもらえません。またたくまに準備した資金は事務所の家賃や仕入れ資金に消えてしまいました。そして、とうとう、ある仕入れ先の支払いを長期の分割支払いでということにまでなりました。
仕入れ先の社長さんがAさんに言いました。
「毎月十八日に、あなたが待って来てください。この日は、必ず、私がいますから。」
分割を快く承諾してくれた社長さんに対して、いくたびも、頭を下げてお礼を言いました。こんなに頭を下げたのは、Aさんの人生にとって、初めてです。
社長さんの所へ返済に行く日がきました。激しい雨です。Aさんは電話を人れて、銀行振り込みにしたいと申し出ました。すると、社長さんは、一日おくれてもよいから侍ってくるようにとのー点ばりです。
"なんて、頑固な社長だろう"と思いながらも、雨の中を訪ねました。雨にぬれたズボンをハンカチでふくAさんに社長さんが言いました。
「Aさん、お金のことだけなら銀行振り込みでも、他の人に待ってこさせてもいいんです。私はあなたの顔を見たかったのです。苦境に会いながらも頑張っているあなたと顔を合わせたかったのです。元気な顔を見れば私も安心です。商売も続けられます。
電話で用件はすんでも、心は通いません。Aさん、顔を合わせて、考えを率直にぶつけてこそ、仕事が進むと思いますが・・・・・。」
Aさんの目に涙が光っていました。



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