10月の法話集 ~定年祝い~


ヨーロッパ旅行から帰った友人がこんな話をしてくれました。
イギリスを旅行中、レストランで夕食をとっていたときのこと。突然、店中から大きな拍手がわいたので何ごとかと通訳に事情をきいたところ、永年このレストランで働いていた料理人が、たったいま定年を迎えたというのです。定年を迎えた料理人は、大きな体をゆすって大喜びで次々に人々の手を握り、抱き合っているのでした。お客までが大喜び。友人はこんな定年の迎え方があるのかと、大変感動したというのです。
「それにひきかえ、自分の定年はさびしかったなあ」と友人はいいます。
友人が定年退職したのは二年前。四年ほど前から定年後のことが気にかかり、人生とはこんなにわびしいものかと、つくづくいやになったことがあったといいます。
"それに比べて、この料理人の定年退職はどうだ、喜びに満ちている、やったぞー! といわんばかりだ。何てすばらしい!"
もうあきれ返るほどに見つめている友人のそばに、何と料理人が近寄ってこういったそうです。
「あなたのお国は?」
「はい、日本から来ました。」
そう答えた友人を料理人はしっかりと抱き締めて、「よく遠い日本から、私の定年退職を祝いに来てくれました。ありがとう、ありがとう。」といったのです。
日本ではテレビドラマなどに定年退職のことがよく描かれます。その多くは、これからの人生をどう生きればよいかと悩む初老のサラリーマンが主人公になっております。しかし、友人が体験したこの定年祝いの情景を思い浮かべると、何か人生がどこまでも明るく見えてきませんか。



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