11月の法話集 ~お釈迦さまの秘書~


ある日お釈迦さまがふと申されました。
「私も歳をとったせいか、身のまわりの世話をしてくれたり、いろいろな雑用を私に代わってやってくれる人がいたら…とつくづく思うようになった……。」
これを聞いたお弟子たちが、口々に申し出ました。
「つまり、お釈迦さまのお付きであり、秘書でございますね。それでは、私がさせていただきます。」 「いえ、私におまかせください・・・。」 
「いやいや、お前たちも私と同じように歳をとっているではないか。だれか若い者に頼みたいが・・・。」
そこでみんなから彼こそはと選ばれたのが、お弟子の阿難さまでした。はじめは「私はまだ修行が足りません」と辞退された阿難さまでしたが、三つの条件を出してお引き受けになりました。
第一に、新しいお弟子、古いお弟子にかかわらず、お釈迦さまの衣服をいただかないこと。
第二に、お釈迦さまが信者から招待を受けられたとき、同席して食物を受けないこと。
第三に、必要でないときに、お釈迦さまにお目にかかり、お給仕をしないこと。
この三つの条件でした。これをお聞きになったお釈迦さまは申されます。
「阿難は偉い。第一の条件は、他の弟子より自分が恵まれるのをいましめたのだ。第二の条件は、馴れ馴れしくなってあやまちがあってはならないと自分にいい聞 かせたのだ。第三の条件は、人の悪口や教団のことについていらざる口出しをし ないとのいましめだ。阿難はよき私の秘書となろう」
この日から阿難さまは二十五年もの間、馴れることなく、甘えることなく、怠ることなく、人の悪口をいうことなく、一人得をすることなく、お釈迦さまの秘書をおつとめになりました。



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