11月の法話集 ~白楽天の問い~


皆さんもお聞きになったことがあるでしょう。中国は唐の時代の詩人"白楽天"の名前を。もっとも楽天はあざ名であり、白居易(はくきょい)が本名です。有名な長恨歌の作者です。
白楽天が杭州の長官をしていた時、秦望山の道林禅師をたずねて、問答をしかけました。
「如何(いか)なるか是れ 仏法の大意」
仏さまの教えの大切なところを一言で言い表わすと、いったいなんですか? と問うたのです。
すると、道林禅師は、
「諸々(もろもろ)の悪を為すことなく、諸々の善を奉行(ぶぎょう)すべし」
つまり、どんなことでも悪いことはしてはならない、また、どんなことでも善いことはすすんで行う、これが仏の教えの心です。と答えられたのです。それを聞いた白楽天が、なあーんだと言わんばかりに、"そんなことなら、三歳の子どもでも分かっているでしょう″ と切リかえすと、すかさず、道林禅師は、
「たとえ三歳の子どもが分かっていても、これをその通りに、八十歳の老人になるまで行うことができますか」
と白楽天に問いかえしたのです。"理屈でいくら分かっていても、身に行うとなると八十歳の老人になっても、なかなかできないものですよ"と道林禅師は、その根本を示されたのでした。さすがの白楽天は、ただただ恥じいるばかりでした。
白楽天のみならず、私たちの生活にも同じことが、たくさんありはしないでしょうか。
知識や学問だけで、分かったと思い込んで、いい気になっていることが、ありはしないでしょうか。



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