12月の法話集 ~病恩だよ~


日ごろ健康で忙しくしていた人が、とつぜん病気で入院したりすると、不安やイライラがつのって、ますます病気を悪化させることがよくあるそうです。
永井道雄さんのお父さん、永井柳太郎さんは右足の骨膜炎に苦しみながら、政治家としての使命をはたされた方ですが、よく、「病恩だよ」と言われたそうです。病に恩を感ずる、言いかえれば、病気よどうもありがとう、恩にきますよ、ということです。
足の痛みで、歩くのは他人の二倍三倍の遅さだそうで、階段は一段ずつ足をそろえて登らねばなりません。他人から見れば、なんとまあたいへんなことだ、となりましようが、永井さんは、「私にはゆっくり歩けるだけの時間があたえられているのだから”病恩だよ”」と明るく言われたそうです。どうしても病床にふせっていなければならない時も、「長期的な構想や読書ができてこんな有り難いことはない、”病恩だよ”」
おそらく永井さんは、口では言えない痛みや苦しみを体験されていたのだと思います。にもかかわらず”病恩だよ”と言って病気をうらむどころか手を合わせるというのですから、その心のやわらかさに感心するばかりです。
”逆境をこえる”という言葉がありますが、いざその境地に立ったら、やはり、たじろぎ、うろたえ、打ちひしがれるのが普通でしょう。しかし、逆境を乗りこえるためにも、”病恩だよ”とさわやかに言ってのける心がまえを、日ごろから心がけておくならば、やはり、逆境は越えることができると思うのです。



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