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家族のコンテクスト(背景・状況)、子育て、そして非行


具体的な子育ての実践と非行のあいだに確立された関連が明らかになると、子育てが行われているコンテクスト(背景・状況)と、有効な子育てを支える要素や、あるいはこれを崩壊させる要素を理解することが重要になってくる。社会的に恵まれない近隣環境や、経済的困難、ストレスや社会的な孤立、家族の崩壊、両親の鬱病など、子育ての背景にある問題が、子育てと子どもの行動の双方に混乱をもたらしているという証拠が増えつつある。子育て状況に関するストレッサー(ストレスの要因)には、子どもへの虐待を含む、極端なかたちでの子育ての機能不全との関連が見られる[42]。非行のような深刻な青少年の行為に関して、子育てと家族生活に影響を及ぼす状況や背景を生み出す具体的な状態を、研究者が突き止め始めたのはつい最近のことである。こうしたコンテクストに関する問題の多くは実際の生活においては相関しているけれども、調査研究において通常は分割して検討されるので、ここでの議論でもそれぞれ別々に考えるものとする。

 社会的に恵まれない近隣環境
危険な近隣環境の中での子育てに関する既存の研究で、子育ての管理的な側面と感情に関する側面の双方に対する近隣の影響を示したものは少ない。例えば、ロバート・サンプソンは、複数の家族において非公式ながら社会的な管理を行うコミュニティ(地域共同体)の程度が、青少年の品行に対する親の監視や管理に影響を及ぼすことを見いだした[43]。ウィリアム・マッコードとジョアン・マッコードは、家族の結束、つまり家族間の感情の絆の度合いの欠如は、社会的に恵まれない近隣環境においてのみ、非行を予測するものになっていることを発見した。良き近隣は家族の結束の弱さがもたらす影響を和らげるのである[44]。
この2つの関連する研究は、非行に対する直接的な影響に加えて青少年の品行に対する近隣の影響に対しても家族過程がどのように影響するのかに光を当てた[45]。ロチェスターでの若者の発達に関する研究(Rochester Youth Development Study)で、親子間の関わりや親の監督が薄れると、社会的に恵まれない近隣の影響は直接的にも間接的にも子どもの非行に及ぶことをわれわれは見いだした[46]。こうした発見は、ピッツバーグでの若者に関する研究調査にも反映されていた[47]。フェイス・ピーブルズは、下層階級の隣人たちに囲まれた生活は、家族管理に関する変数がその重要性を失うといった有効な子育てに対する課題を示す、という仮説を立てた。この仮説は、家族間の希薄な関係や親の監視の乏しさがスラム地域における非行と大きく関連するという研究成果によって裏づけられているものではない。下層階級の隣人たちの中で暮らしていても、子育てに長けた親の子どもは子どもの管理スキルに欠ける親を持つ子どもよりも深刻な非行に走らない[48]。しかしながら、下層階級の隣人たちに囲まれ、親に"非常に管理された"少年は、非下層階級の隣人を持つ、親に非常に管理された少年に比べ、なお一層非行に走っており、これは有効な子育てでさえも近隣環境の悪さに圧倒され得ることを示唆している。下層階級の近隣環境において、同程度に激しい非行や薬物の使用といった諸要素が、おそらく直接的な影響に寄与したのだろう。さらに、クリーヴランドの社会的に恵まれない近隣環境の家族を対象にした調査では、個々の家族内の有効な子育ては、そうした近隣環境での"必要最低限"の子育てがなされた青少年の品行にあまり大きな影響を与えないことが示唆されている[49]。こうした発見は、有効な子育てへの支援や手本の少ないところで子育てをする際に親が克服しなければならない圧倒的な障害をわれわれに気づかせてくれる[50]。
 社会的に恵まれない近隣に囲まれた生活は、家族や有効な子育てにとって固有の課題を示している。残念なことに、そうした近隣環境に住む家族はしばしば、経済的困難やネガティブな生活上の出来事、日常的な口論、非常に貧しい社会的資源といった他の生活上の不利点(ディスアドバンテージ)と闘わなければならない。このずらりと並んだ不利点によって、混乱した関係に陥る、入り混じった危険のあるところに家族はさらされる。差別や人種差別、住居の選択など機会に対する影響のために、さまざまな不利点と闘わなければならない人たちのあいだには、有色人種の家族がよく見られる。

 経済的困難
これまで、多くの犯罪学の調査研究が家族の社会経済的地位と非行の関係を調査してきたが、社会の下流層と深刻で公になった非行のあいだにはあまり大きくないが関連が見られることが明らかにされている[51]。しかしながら、経済的困難は家族生活に与える強い影響によるストレスを生み出しており、現在の調査研究は家族過程の混乱が経済的困難と若者のネガティブな行動の関係をつなぐ決定的なものであると指摘している。例えば、ロバート・ラルツレーレとパターソンは、青春期はじめの非行に対する社会的困難の影響は、親の監視(モニタリング)と躾の混乱にまったくといっていいほど左右されることを発見した[52]。
 経済的困難が家族生活に与える影響、その結果、青少年の暴力や非行に対する影響の及ぼし方に関する研究は、極度の家計的な圧迫により認められるストレスは両親の怒りっぽさを増大させるために懲罰的で筋の通らない躾が見られるようになるが、その一方で、子育てや支援的な行為が親に見られなくなることを示唆している[53]。家計的なストレスはまた両親を塞ぎがちにするので、怒りと感情的な爆発を伴って子育てに影響する夫婦喧嘩を引き起こし、これが直接的に青少年の暴力に悪影響を及ぼしている。経験的な裏づけを取ってきたこの一連の場面において仮定されたもう一つの段階は、子育てのスキルに対する親の自信を徐々に弱める経済的な圧迫によって生み出される感情的な苦悩である[54]。

 ストレスと鬱
パターソンとその同僚は、経済的なストレスと親子間の交流のあいだに見られたような関連性が、子育てのストレス、広く言えば家族過程と青少年の行為のあいだにも見られることを見いだしている。片親にとっては、他のタイプのストレスが、それが日常的な子育ての奮闘や生活上のマイナスの出来事において増大するにつれて判断されるかどうかによって、親の短気や威圧的な躾の行使を増大させ、反社会的な子どもや青少年がストレスのある親の短気な行動を刺激するという、前述した循環をうながすのである[55]。独自に行われた一連の研究では、攻撃(暴力)的な子どもの母親は、他人とストレスのたまるようなつきあいをした日には、そうでない日に比べて、手当たり次第に、嫌悪感を表しながら子どもと著しく接していることを示している[56]。ロチェスターでの若者の発達に関する研究(Rochester Youth Development Study)では、最近起こった生活上のネガティブな出来事をはじめとする、親の苦悩が過度のストレスや憂鬱を感じさせ、非行を抱える家族の親子間の結びつきを混乱させることが分かった。ストレスを抱えた親は目に見えて子どもに愛情を持たなくなり、そうした子どもたちは非行に走りがちになるのである[57]。愛情の減少はさらに親子の関わりをも減少させ、親は子どもを管理しなくなるので、非行を助長するのである[58]。
 こうした中、親のストレスや鬱が非常に関連し合っていることを示す研究が多くなっている[59]。鬱を感じている母親は、鬱を感じていない母親よりも子育てに関するストレスや生活上のマイナスの出来事を申告することが多く、日常生活におけるストレスの程度の変化が彼女たちの日常生活における気分にも影響を及ぼしている[60]。ストレスを感じている親と同様に、鬱を感じている親も子どもの監視や躾を有効に行っていることが少なく、子どもとの交流にいらつきやすい傾向にあり、子育てにおけるこうした混乱が今度は子どもの行動に問題が生じる危険性を増大させるのである[61]。
 最近のいくつかの研究は、親の鬱は、片親の家族においてではなくとも、二親のいる家族の家族マネジメントにおける混乱に対するストレスと大きく関連していることを示唆している[62]。複数の現場で横断的に同じ検証を繰り返す中で、ランド・コンジャーとパターソンは、二親のいる家族にとって、ストレスは鬱を引き起こし、そしてその鬱は躾の混乱を予言するものとなり、さらには子どもの反社会的行動とも関連があることを証明した[63]。彼らの研究結果は、同様のモデルが、中流から中流の下層クラスの収入のある地方のコミュニティと、都市部の危険で貧しい地域でのサンプル例のあらゆるところで繰り返し見られたという点で特に印象的である。さらに、双方の研究では、家族間の交流に関する観察を含む、十分に構築された複合的測定法を用いていた。

 社会的孤立と社会的支援
――家庭に対する支援の有無と、その家族の攻撃的な、あるいは非行に走っている青少年に関する研究は少ない[64]。ロバート・ワーラーは、経済的に貧しい家庭の母親は中流階級の母親たちよりも相当に社会的に孤立していることを見いだした。前者の社会的な接触は、主に家族や"ヘルピングエージェンシー(helping agency/援助する者)"とのもので、こうした接触には嫌悪感が表れたり、ワーラーが"孤立/島国性(insularity)"と名づけた、さまざまな要素が組み合わされたものになる傾向があった[65]。ワーラーとその同僚による先に引用した研究で、貧しい家庭の母親は、他者との接触がまったくないか、ほとんどないか、あるいはあったとしてもそれは対立的な接触で、彼女たちの息子への理解や交流は嫌悪が表れているものであるが、好ましい社会的接触はより好ましい親子関係と関連が見られたことを示している[66]。他者とどれだけの交流をしたか、どのような交流をしたか、子どもとどのような交流をしたか、熟練した観察者による家庭での評価によると、これのあいだの関係は子どもの実際の行動とは無関係に保たれており、社会的接触は子どもの行動を同じぐらい子どもへの監視や親の行動に影響を及ぼしていることを示している。したがって、子どもの観点からすると親の付き合い方には一貫性がなく、嫌悪感が表れているように見える[67]。われわれは、友人や親戚などからの支援の欠如と、親子間の関わり合いの減少のあいだに大きいけれども控えめな関係を見ることができる。社会的孤立は、親の管理が少なくなる中での親子の係わり合いの影響を通じて間接的にではあるが非行に影響を及ぼしている[68]。
(友人や親戚などからの)支援の存在は、短気で一貫性のない子育てを和らげ、また、子どもへの監視へ向けた親のエネルギーや能力を開放し、子育てに良い家族環境を提供するかもしれない。経済的に困難を抱えた家族に関する研究で、コンジャーとグレン・エルダーは、家庭内や家庭の外における温かい、協力的な関係は、夫婦間の問題や子育ての問題による親の鬱や混乱から青少年の反社会的行動の進展まで、家族関係のあらゆる面でのストレスの有害な影響を軽減する[69]。こうした発見は、家庭非行の分野外の論文とも一致するところもあり、ストレスは社会的支援の欠如によってつくられ、社会的支援の存在によって和らげられることを示している[70]。

 家族の混乱
――家族の混乱や片親の家庭は、非行と首尾一貫した関連性のある家族の背景の一側面である。この問題に関する初期の研究では、"壊れた家庭"、つまり生物学的な血のつながった二人の親が揃っていない家庭に住んでいることが非行の増加との関連性があることを見つけようと努めていた。いくつかの矛盾した点があったものの、非生物学的な家族構成と非行とのあいだに関連性があることが概ね認められた[71]。家族構成と非行に関する50の研究の包括的なメタ分析の結果は、結局、その関連性は軽微な非行に関して強いけれども、片親の家庭に育つ子どもの非行率は(そうでない家庭の子どもに比べて)10~15パーセントほど高い[72]だけである。この研究を著した研究者はまた、方法論的な矛盾と不足が家庭や青少年に関する諸側面がこの関連性を説明に役立つという結論を引き出すのを難しくしているとも指摘している。
 親の介入の観点から見ると、青少年が非行に走りやすいような家族構成を明らかにすることも重要で、実際のところ、その後の研究ではいくつかの可能性が探られている[75]。その説明の一つは、二親が揃っていないと子育ての資質に障害をもたらす可能性があるというものである。家庭に片親しかいない場合、(二親の家庭に比べて)他のことについては平等であっても、子どもへの監督や関わり合いに割ける子育ての余力に無理が生じる。さらに、そうした親は学校や少年司法制度(juvenile justice system) などといった組織・制度の中で子どもを擁護するためにはさらに時間を割かない。たとえば祖母のような他の協力的な大人が血のつながった親がいないことを補えるが、父親の不在は青少年の管理や親のいらつきや閉じこもりに関する問題と関連が見られる[74]。ある場合には父親の不在がいっそう顕著に問題と関わることもある。たとえば、黒人や白人系の家庭ではなく、ヒスパニック系の片親の家庭で非行の危険性が高かった[75]。また、いくつかの研究は、家族構成と非行の関連性は、子育ての質を調整した後では見られなくなった[76]。しかしながら、最近の研究では、強い愛情のある片親の家庭と比べて、子どもが二親と強く結びついている場合に、非行の軽減に対する家族の大きな影響が見られるとしている[77]。
 非行に走る危険性のある第2の要素は、別居や離婚に伴う夫婦間の不和である。われわれは、夫婦間の不和がどのように子どもの反社会的な行動につながるのかを未だに明らかにしていない。その経路は、直接的にはたとえば敵対行為や攻撃(暴力)といった親の行動パターンによるものかもしれないし、間接的には、子育ての崩壊によるものかもしれない。前述したように、夫婦の不和により増大したストレスは、厳しく、首尾一貫性のない躾につながっていた。したがって、血のつながった親の不在とともに夫婦間の不和は子育ての質を徐々に害することがある。数多くの研究が、夫婦間の不和が子どもの行動の崩壊に関係していることを証明している[78]。
 血のつながった両親が揃っていない子どもに影響を及ぼす、最後に挙げられる危険な要素は、家族構成の変化で、それはそうした変化が特定のストレスや不和と関連性があるからである。ある研究によると、子育ての質を考慮に入れたとしても、多くの場合、家族構成の変化が反社会的行為を含む乏しい社会適合と関係している[79]。典型的な出生コーホート[訳者注:同一年あるいは同期間に誕生した集団または世代]に関する長期的な研究での研究結果も同様である。子どもを主に世話する人の変化によって測られる家族の不安定性は、十代初期での警察沙汰と強く関係していた[80]。家族の対立や家族構成の変化の影響の解明に着手する、ある重要な長期的研究において、夫婦間の不和はたとえ家族構成に変化がない場合でも子どもが早い時期に犯罪を犯す危険因子であった。また、家族構成の変化は、夫婦の不和を伴う場合にのみ、犯罪の危険因子となっていた[81]。ここで、入手が容易なデータだけでは回答が得られない、興味深い問題が挙げられる。たとえば、このような問題である。既に問題を起こした子どもたちは、夫婦間の不和やストレスに対して特に敏感になっているのだろうか? さらに言えば、そうした親の問題によって崩壊した子どもの行動が夫婦の苦悩を引き起こすという双方向的な関係が働いているのかもしれないということである[82]。



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