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数ある原因の中で、一つの原因としての家族


これまでに、非行や反社会的行為の性質や原因について多くの考え方が出されてきた。家庭は別にして、非行との関連性が見られる主なコンテクスト(背景・状況)には、学校や仲間、近隣が含まれる[83]。もし多くの要因が非行と関連してきたのならば、最大限の変化を見せる家庭もおそらくは非行の一部を説明するにすぎないのであって、事実、これが実情であることが分かっている。前述したように家庭に関する諸要因を組み合わせた研究はより多くの変化を説明するけれども、個々の家庭に見られる徴候や伝統的な手法を用いただけでは、多様な非行の20%以上を通常は説明できないことが分かった[84]。観察測定を含む、より新しい手法を用いた研究は、概して、より影響力のある家庭の影響を見出している。
 この10年間の論文を見ると、非行にはさまざまに限定された性質があるという認識が優勢になってきている[85]。次の2つの手法が他の要因に関する家庭の寄与を評価するために用いられており、その手法によりさまざまな発見がなされている。第一の手法は、一定の徴候(予測変数)よって、広範な分野の研究それぞれに偶然割り当てられた非行青少年の分類をどの程度改善できるかを評価する「偶然に対する相対的改善(Relative Improvement over Chance/RIOC)」といった指標を関連させたものである。この手法は、家庭に関する要因が諸要因の中でも強い徴候(予測変数)となっていることを示唆している。
 さまざまな徴候(予測変数)の効力を比較するもう一つの手法は、非行の多変量モデルを利用したものである。論文には非常に定式化されたモデルがいくつか見られるが、その中には複雑な理論的統合に基づいたものもある。これには、デルベルト・エリオットとその同僚による、社会結合と社会学習に基づいたモデル、J・デイヴィッド・ホーキンズとその同僚の社会開発モデル、パターソンと同僚の強制モデル、スコット・ヘンゲラーが開発したマルチシステミックなモデル、ソロンベリーの相互作用モデルなどがある。パトリック・トーランもまた、反社会的行為を理解するには発生・生態学的な枠組みを利用することとの重要性を強調している[87]。こうしたモデルの試験は、さまざまな時点における犯罪のさまざまな原因に関するデータを必要とする。以上のような研究による研究結果からも、複合的に構成されたモデルは、個々の原因に基づくモデルよりも非行に関してより発展した説明ができるということは明らかである。
 一般的に、複合的に構成されたモデルは、他の要因、とりわけ、不良仲間の影響、学校での落ちこぼれ、早い年齢からの暴力、あるいは"やっかいごと"に比べて、家庭に関する諸要因の大きな役割を示さない[88]。しかしながら、手法や方法は広く変化するので、横断的で多変量な研究は、変数のあいだの線形的で相加的な関係を示す傾向にある。したがって、多変量的なコンテクストにおける家庭に関する諸要因の役割は主として間接的なものである。家庭は、主に、その仲間関係や学校への関わりや成績に対する影響を通じて非行に影響を及ぼすかもしれない[89]。たとえば、パターソンやその同僚は、初期段階での不十分な親の管理は、学校での成績を低下させ、悪い仲間との付き合いにつながると指摘している。攻撃(暴力)的な行動をする子どもはまわりの仲間たちに拒まれるので、その子どもは問題や面倒ごとを起こすような子どもたちに近づくようになり、このことが社会から外れたグループとの付き合い、最終的には非行につながるのである[90]。
 最後になるが、複合的に構成されたモデルは個々の特徴を強調しない傾向にあるが、研究者たちは、反社会的行為や暴力に関連する、心理学的、生物学的、あるいは、気質上の特徴を認めている。暴力や反社会的行為に対する、生物学的、あるいは気質上の影響の最も重要な証拠は、注意欠陥、活動過多な子どもに、後に行動に関する問題を引き起こす危険が高いことを示している研究に基づいている。こうした個々の心理学的、生物学的特徴は、攻撃(暴力)的な若者が社会的に順応した仲間たちから拒絶され、社会から外れた仲間たちを頼り、非行に走る可能性を増大させる。攻撃的な行為をしない若者たちに比べると、攻撃(暴力)的な若者は、コミュニケーション力と社会的解決能力に乏しく、暴力というものを、対立を解決し、自尊心を獲得し、仲間から認めてもらうための正当な方法と認識しているおそれがある[91]。反社会的な若者はまた、情報処理力の欠陥も示している。彼らは、あいまいな状況において(相手・仲間の中に)敵対的な意思を認めて自身の攻撃(暴力)性については過小評価するが、仲間の攻撃(暴力)性について過剰に評価する傾向があるようである[92]。ロナルド・スラビーとナンシー・グエラは、非常に攻撃的な青少年と、暴力犯罪を犯した青少年は双方とも、問題解決力の相当な欠陥を示し、攻撃的でない青少年に比べて暴力の使用を支持するという考え方を支持することが多いことを見いだした[93]。この部門の研究は再び、非行に寄与する諸要素が絡み合っていることを指摘するのである。
 



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