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子育ての過程を対象にする介入


  家族の介入に関して、4つの関連する領域が、子育ての過程と親子の関係に関して家族と非行を対象にした調査研究によって示されている。子育てのスキルの向上、家族が互いにケアし、心配し合えるようにすること、家庭内の対立に対処するための家族のコミュニケーション力と問題解決力の向上、そして、虐待(冷遇)への取り組みである。
親のマネジメント(管理)のスキルの向上――介入について最も経験的に裏付けている領域は、親のマネジメント(管理)のスキル、なかでも、直接的な管理戦略である。親業行動トレーニング、あるいは社会学習による家族療法では、子ども時代の攻撃(暴力)と後の非行を促進する威圧的な親子の交流を改めるよう親に教えている。親業トレーニングには、分かりやすく、年齢に適したルールや期待の確立、そのルールの遵守や好ましい社会行動の強化、逸脱した行動に対する矛盾のない躾の実施などが含まれている。親の影響力を一定して与えるために、親は子どもの行動を近くにいながら追跡し、家の内外での子どもの行動を監視しなければならない。こうした作業はいっそう難しくなっているものの、親の監督不足と非行のあいだに大きな関係があるとすれば、子どもの未成年期にはきわめて重要にさえなる。子どもの同年代の友人を知り、学校関係をはじめ親どおしのネットワークに関わることは、親の監視能力の向上につながるかもしれない。親の監視が思春期には特別な難題を起こすように、親が監督する逸脱した行動に親の影響力を発揮するには慎重な計画が必要である。
 非常にさまざまな環境で実施された、数世代にわたる厳密な調査研究は、前青年期の反社会的行為について、親業行動トレーニング、あるいは社会学習による家族療法の有効性を証明している。これらの研究は、親に家族マネジメントのスキルを教えることによって威圧的な親子の交流を変えることを重視する介入が子どもの行動の乱れを短期間に減ずることを一貫して示している。しかしながら、後で議論するように、こうした変化を見せるのは、さまざまなストレスを抱えた親や経済的に貧しい親の場合に限られている[94]。十代の終わりの子どもや、特に、少年司法制度に関係している子どもたちに関しては、攻撃(暴力)や非行の常習者に対する社会学習を通じた介入の有効性に関する研究や種種入り混じった証拠が少ない[95]。オレゴン社会学習センター(OSLC)のパターソンとその同僚は、この分野で最も前途が有望な研究をいくつか続けている。たとえば、親業トレーニングによって、若い青少年のいる家族間の威圧的な交流を和らげることができるという証拠も対照群研究に基づきいくつか出されている[96]。しかしながら、親業トレーニングと青少年のグループ療法が組み合わされる場合、おそらく危険度の高い仲間との接触による悪い影響のために青少年の問題ある行動は増大した。別の実験研究によると、既存のものに代わるトリートメント(支援サービス)を1年間継続中の青少年にも犯罪の発生率、普及率ともに相当の減少が見られたけれども、社会学習による介入は、慢性的な非行を短期間で、そして著しく減少させた[97]。トリートメントの終了時、継続中に見られる最も印象的な成果は、特に青少年犯罪者の施設収容に非常に高いコストがかかっていることを考えれば、この施設収容率が、親業トレーニングの後で大きく減少したことかもしれない。
 励みとなるような結果がいくつかあるにもかかわらず、パターソンは、非行対策の行動に関する家族マネジメントのトレーニングは、家族とセラピスト(療法士)双方の要求が非常に厳しいので、コミュニティという環境の中でOSLCモデルのトレーニング繰り返し実施するのは実行可能でないかもしれないと指摘している[98]。これよりも実践的なアプローチは、やはりOSLCのパトリシア・チャンバーレインが開発した「児童養護(里親委託制度)処置モデル(Treatment Foster Care Model/TFC)かもしれない。このモデルは、家族マネジメントにおいて経験豊かな育ての親業トレーニングを実施して、非行青少年の行動を抑えるものである。その過程においては、子どもの非行によりストレスを感じ、圧倒されている親は、休息期間を得ると同時に子育てのスキルを学ぶ。このとき彼らは、子どもの更生と子どものマネジメント(管理)に向けた支援を受ける。ある研究によると、TFCは、既存のものに代わる家庭でのケアに比べても青少年の施設収容を大きく減少させており、このモデルに関して今後とも継続的な評価を続けることが望まれている[99]。

 子どもに対するケアと関心を促す介入
――介入の二つめの領域は、親子の密接な関係と非行の根源的な問題である愛情の役割である。孤立し、疎外された家族は介入をあまり望まない場合が少なくないので、思春期における親の愛情の欠如に取り組むのは問題である[100]。しかしながら、親の愛情とは、考えられているよりも流動的で変化しやすいものである。たとえば、ペギー・ジオルダーノは、親の愛情の欠如が非行に結びついていないと思われるケースの分析では、"シルバーライニング効果(不幸中でも明るい希望を持てば良い結果につながる)"と言われているように、客観的に恵まれない環境でも向上への希望を持っている若者は、予想していたよりも非行に走っていないことを個人の体験に基づいたインタビューのコメントより明らかにしている[101]。この点は、ひどい虐待を受けた子どもでさえも親を好意的に見る傾向にあるという、児童虐待に関する研究で発見されたことと関連して重要なことであり、子どもに対するケアや関心の増大を証明するような親の側の小さな努力があれば、青少年の行為に良い影響を及ぼし、子どもの更生に寄与するかもしれないということを指摘している。このことは実に、非行青少年に対する家族の介入の多くの前提となるものである。親が子どもにエネルギーを再び注ぐことは、これが子どもを変えることへの責任を引き受けることを行動に移す意思によって証明されれば、子どもの受け止め方に変化を起こすことに寄与するかもしれない。
 家族療法の分野が寄与している "リフレーミング(再構成)"という方法は、親と子それぞれの互いに対する受け止め方を変えることによって、家族のトリートメントへの関わりと、家庭環境の改善の双方を促す方法の一つの可能性を示すものである。リフレーミングをする療法士は、好ましくないと受け取られている行動にも新たな面が、より温情的な面がある可能性を示唆する。たとえば、子育てのルールや躾は権威主義的に課すもの、あるいは子どもの生活を"荒廃"させるという親の企図の証拠などではなく、子どもへのケアや関心の徴候としてリフレーミング(再構成)できる[102]。青少年の行動は、友人付き合いがうまくいっているという発展的な状況の中でリフレーミングできる。この方法で、ヘンゲラーとチャールズ・ボルドゥインは、問題のある行動を"他者(特に同年代の仲間)からの影響に対する青少年の極度の多感性"としてリフレーミングして、このときに、親は多感な子どもたちの手助けをするために彼らの行動を修正していくことを提案する[103]。
 家族療法の分野におけるリフレーミングの卓越性にもかかわらず、トリートメントへの関与に及ぼすリフレーミングの影響に関する研究結果は、反社会的な子どもを持つ家庭療法のプロセスの研究から生まれた。オレゴン社会学習センター(OSLC)で実施された、いくつかの調査では、家族マネジメントのスキルを親に教えると、その親の中に抵抗感を生じさせるが、親に対する支援やリフレーミングを行うと抵抗感は少なくなり、家族のトリートメント継続を手助けすることが分かった[104]。また、関連する研究では、親や、非行青少年の属性の変化が行動や情動に与える効果を裏付けている。コール・バートン、ジェームズ・アレキサンダー、チャールズ・ターナーが実施した研究室研究(ラボラトリー・スタディーズ)では、属性の変化は協調性を欠く受身的なコミュニケーションを減少させることが分かった。しかしながら、協調性あるコミュニケーションが増えるわけではなく、リフレーミングはあくまでも"きっかけ"をつかませるだけで、その後はスキル習得を通じたさらなる介入を行う必要がある[105]。他の研究によるさらなる発見は、青少年によって崩壊した家族は、崩壊していない家庭に比べて悲観的で不合理的な考え方をかなり支持しているが、こうした考え方はさらにコミュニケーションや問題解決を妨げるほど融通のきかない信念にまで移行することがある、と指摘している[106]。これはまた、信念の変化は関係の改善を助長するかもしれないという考え方も支持している。問題のある行動を考察する新たな見方を創出する際には、リフレーミングは親と青少年が互いの見方に対する理解を深め、共感を生み出すのを促すかもしれない。親子の立場の逆転、つまり親が自身の思春期を思い、子どもが独立への努力をすることもまた、共感を増し、親と青少年の結びつきを強めるかもしれない[107]。
 家族どおしの関心が高まってしまえば、共同で行う家族活動など、対立の起こらない領域周辺の活動への家族の参加を助長することは、家庭の好ましい雰囲気を高めることができる[108]。しかしながら、親が子どもの生活に関わっていくことに価値があるにもかかわらず、一緒に好い結果を生み出す時間を送るきっかけをつくる際には、子どもが他の仲間たちや、同じように親子間に対立を抱えている人間と過ごす時間のほうを好むということを考慮に入れる必要がある。これまで威圧的な付き合いをしてきた家族が一緒に時間を過ごし始めるわけなので、親も子もそのスキルに欠けたり、愛情や思いやりを表現するのにぎこちなさを感じるかもしれない。なかでも、思春期への移行期になって、親子の交流も変わり始めるとき、前向きな感情を伝える適切な方法を探す必要がある。
 最後になるが、親としてのマネジメントスキルの向上は、家庭環境の改善へと一般化することもできるだろう。これは長く、社会学習と、家族主体の介入アプローチの論理的な前提であった。この考え方には、"反響する変化(reverberative change)"が、つまり、家族生活のある領域における変化には他の領域における変化を伴っているという発想が、経験的な裏づけをいくつか与えている[109]。しかしながら、非行にとって根源的な問題である家族の思いやりや愛情の重要性にもかかわらず、家族マネジメントの体系的なトレーニングを行わずに、家族の感情による関係の変化が非行を減少させるという経験的な証拠もまだない[110]。
 ここで非行予防に関する話をすると、幼い子どもに対しては外部からの影響が少ないので、子どもの幼い時期の愛情は、健全な青少年の成長にとって少なくとも(思春期に注ぐ愛情)同様に重要であるだろう。これによって子どもがうまく社会順応できると保障できるわけではないが、思いやりのある、協力的な親子関係は、有効な親としてのマネジメントの実践の基礎を築くとともに、満足のいく幼児期と後の思春期の行動を確立することができる。したがって、満足のいく早い時期の親子関係の形成とその支援に向けた予防的な介入は、子どもの攻撃(暴力)や後の非行を和らげ、思春期における矯正的な介入よりも幅広いプログラムによる案を提案している。「グッドデイケア」や子ども虐待に関する教育と予防、子育てスキル教育、親子の愛情関係の強化や後の暴力行為の防止をしなければいけない危険にさらされている母親の健康ケアなどのプログラムの影響については、さらなる評価が必要である。経済的に貧しい、マイノリティの就学前の子どもたちの発育を、こうした家庭が必要とする幅広い要素で支援しながら世話するプログラムである「ペリー・プレスクール・プロジェクト」の長期的な継続は、十代の若者に行うプログラムよりも非行などの問題ある行為に好い影響を及ぼしていることを証明した[111]。

コミュニケーション力と問題解決力の向上
――親子の対立に対処するための家族メンバーのコミュニケーションと問題解決のスキルの向上は、他の家族主体の作業とともに社会学習を基礎にした家族の介入に含まれていることが少なくないが、常習的な非行に効果があるという証拠が出されている。アレキサンダーとその同僚は、「実用的な家族療法(functional family therapy/FFT)」、つまり、青少年の問題ある行動を対象にし、家族のコミュニケーションパターンやネゴシエーション(交渉)スキルを変えることで、非行のない家庭に見られるような親子の交流に近づけるという社会学習システムのアプローチに関する一連の研究を続けている。この実用的な家族療法は、はじめに、他人をとがめることを少なくすること、一緒に努力する協力的な場を設けることに重点を置く。そしてこれができたら、行動に関するスキルトレーニングの段階に入り、ここでは、子育ての障害を修正し、前向きなコミュニケーションと問題解決のためのふれあいの確立に重点を置く。誰にとっても最上の和解を提示する解決策に関する交渉能力は、他者の見方を取り入れることや、非行青少年に欠けているスキルを学ぶことが求められる[112]。
 トリートメントの成果に関する研究は、FFTが常習的な非行や、犯罪を犯した者および深刻で慢性的な非行を行った者の施設収容処分を減少させ、その変化は最大でも数年のあいだは維持されることを示している[113]。重要なのは、FFTの結果として、非行やその常習性を減少させるとともに、親子相互の励ましの増大や家庭環境の向上も成果として現れていることである。社会的に恵まれない少年犯罪者に対して、FFTを家庭で自立的に繰り返し実施する場合においても、非行の常習に対していっそう大きな影響が見られる[114]。慢性的な非行の中断に対する長期的な効果はなかでも注目に値する。5年間の追跡調査によって、保護観察のみ受けた非行少年のうち41%が成人してからも犯罪を犯したのに対して、FFTを受けた少年ではわずか9%であった。ひとまとめにして考えてみると、少年非行へのFFTに関する研究を基にした成果は前途が明るいと言える。

虐待(冷遇)への取り組み
――虐待(冷遇)もまた介入の重要な対象である。なぜなら、虐待は、非行だけでなく、学校での落第や暴力、仲間と健全な関係を結ぶ能力がないなどの、非行を予測するような他の要因も含めて、長期的に見た発育上の多くの悪い結果と関連しているからである[115]。虐待に対する介入に関する批評は本稿の範囲を超えているが、いくつかのポイントは強調しておくに値する。第一に、ソーシャルワーカーは、反社会的行為や非行を行う青少年はこれまで虐待を受けてきたかもしれないということを認識する必要があり、日常的に虐待の履歴や現状について評価すべきであること。第2に、虐待が反社会的行為に先行するものなのかどうか、少なくとも、部分的にその影響について明らかにすべきである。幼児期の後期や、思春期において、虐待は、子どもの反社会的行為に対して親が厳しく、感情が爆発するような躾によって反応したしたときにはじめて現れることがある[116]。こういうことが現実に起こった場合には、暴力のサイクルを中断させるため、主に家庭で行う介入が適切である。しかしながら、虐待が継続し、親の虐待または放任の長期的なパターンを示す場合、行動に対するマネジメントの重点を、威圧的なレポート提出や子どもの保護サービスを通じて親の方に移すことが求められる。虐待された子どもは、その不当に苦しめられたことによる心身の影響に対処するためにもその評価やトリートメントを受けることが必要である[117]。深刻で、長期にわたる虐待もまた、子どもに対する更生を行う者として親が適切かどうかをいう問題を生じさせるが、里親委託ケアや在宅ケアがより適切かもしれない。
 虐待の予防に関する取り組みは、怠惰で、虐待する状況を和らげ、家族のメンバーに対する確かな愛情を助長するために、虐待を受ける危険性の高い幼児やその世話をする人を対象にして行うべきである。家族の支えになったり、親のストレスを和らげ、これに対処するなど集中的な家族保護をはじめ、虐待の危険の高い家族に対して早い段階から追加的に行う介入は、虐待の危険性を軽減するかもしれない。
 



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