非行の複雑な原因を対象にする介入
家族の問題は非行を予測する他の幅広い要因の一つになっているので、非行に関する包括的な介入は、さまざまなシステムを対象にし、学校や仲間との交流といった子どもの生活の他の領域に家族が関わっていくことを促すべきである。反社会的行為と学校の成績には好ましくない関係が見られることを調査研究は一貫して示している[142]。勉強のスキル不足を改善するための介入は学校主体で行われるべきであるかもしれないが、早い時期における学校への順応に関しては家族が重要な役割を果たすこともできるのである。学校生活における親の介入や学校での成績の監視は、学校での成績不良や、退学や非行といった学校生活に関連する悪い結果が起こる可能性を低くする[143]。反社会的な若者には、教室(たとえば、学習作業にかける時間)、家庭(たとえば、宿題にかける時間)双方において学習への関わりが欠けていることが成績不良につながっている[144]。したがって、宿題を終える時間に関するルールを決めることや宿題を終えるのを監視することをはじめ、宿題をする環境を親が提供するのを手助けすることが介入すべき領域の一つである。学校について子どもと話し合うことによっても、親は子どもが学校で何をし、どのように過ごしているのかを知ることができるとともに、親の思いを伝えることができる。
学校生活に対する親の介入には、学業に関する能力を育てる学校や家庭での幅広い活動が含まれる。残念なことには、学校生活に対する親の介入に関する最近の研究は、親業トレーニングの失敗に関連する、以前と変わらぬ不遇な境遇が学校生活に対する親の介入を徐々に弱めることもある、としている[145]。学校に対する親の介入を妨げているものを特定するために親のグループとともに活動し、子どもの学校教育を一緒に支援する権能を親たちに与えるとともに、親と学校の協働の妨げているものに取り組み、改善するような両者の関係を強化することを考えれば、スクールソーシャルワーカーは、こうした非常な危うさを抱えている家庭にとって、学校生活に対する親の介入を助長できるいちばん良い位置にいるのかもしれない[146]。
反社会的な子どもの場合、内面の精神的スキルや社会的スキルの不足が仲間の拒絶を導いていることから、ここでは続いて、攻撃(暴力)的な若者の個々の性格に焦点を当てる介入を検証する。なかでも最も効果が期待されるのは、仲間との付き合いにおける社会的な対処法の改善を企図する、属性のかたちや問題解決スキルを対象にした認知と行動に関する介入である[147]。このような介入は、通常は学校や公共施設などを拠点にした環境の中で小さなグループで実施されるものだが、攻撃(暴力)的な行為を減少させ、社会的な役割を果たすことに次第に自覚的にさせていく。しかし、そのような変化を維持させることや、トレーニング環境の外部にまで一般化することに関しては証拠が少ない。司法の判決を受けた非行少年に関して言えば、認知と行動に関する介入により一般的にスキルの向上を見せているが、研究ではその検証をしておらず、常習性に対する最小限の影響を証明しているにすぎない[148]。攻撃(暴力)的、あるいは非行を行った若者をひとまとめにして行う介入では、非行に対する危険性を説明する際に社会から逸脱した仲間を目立たせてしまう危険もないわけではない[149]。小グループの中に、最小限に攻撃(暴力)的な若者と大いに攻撃(暴力)的な若者を混ぜ合わせ、能力のある子どもが手本としての役割を果たすように実施した、仲間に対処するスキルのトレーニングでの評価は、悪影響は見られず、能力のある子どもについては好ましい影響も一部に見られた。このような介入もまた、攻撃(暴力)的な行為を減少させ、非行をする危険性の高い若者に対する好ましい対処法を向上させるので、これは攻撃(暴力)的な若者に対するグループ介入として有望な方策として示されるだろう[150]。
現在いくつかの研究が示しているように、若者に対するスキルトレーニングと家族に対する介入を組み合わせれば、より永続的で一般的な変化を生み出せるかもしれない。アラン・カズディンとその同僚は、認識に基づいた問題解決スキルのトレーニングと親業・家族マネジメントトレーニングの組み合わせは、どちらか一方の介入だけを実施した場合よりも、親のストレスや鬱をはじめ、子どもの反社会的行為と非行に対して明らかな効果をもたらすことを発見した[151]。同様に、アーノルド・ゴールドスタインとその仲間は、若者だけがグループトレーニングを受ける場合に比べて、若者の暴力置換のスキル習得トレーニングに家族も参加したほうが、非行の常習性がなくなることを見いだした[152]。心理的興奮物薬物療法(psychostimulant
medication)は、攻撃的あるいは反社会的である若者はもちろん、注意欠陥多動性障害(ADHD)を持つ多くの若者を持つ家庭では、子どものスキルトレーニングと親の家族マネジメント双方の効果を高めることができる。薬物療法は行動上、学業上、社会的役割における好ましい短期的な変化を処置した子どもにもたらすと数多くの研究が示しているけれども、ADHDに関連する多種多様な問題や、心理的興奮物薬物療法の永続的な効果に関する証拠不足を考慮すれば、薬物療法と他の介入を組み合わせることが必要であるということにこの分野のほとんどの調査研究者は賛同している[153]。
最後になるが、家族は、仲間との交遊環境を監督する際に直接的にも間接的にも寄与するので重要である[154]。たとえば、非行少年との付き合いは非行と関連するけれども、この関係は強い家族の支援がある状況では、家族の支援が少ない場合に比べると影響力が弱い[155]。また別の例を挙げれば、マーク・ウォールは、両親への愛情が非行少年との付き合いを防止し、さらには、青少年が非行少年と友情関係を築いた場合でも、両親と過ごす時間、なかでも週末を親と過ごす時間がその仲間の影響力に対抗して非行を軽減することを見いだしている[156]。
また、親の監視が不十分な場合、特に思春期において親に監視されない時間が増えていく時期には不良グループの方に流されていくことが多くなることを長期的な調査によるデータが示している[157]。したがって、家族は監視と監督を通じて仲間との交遊環境に影響を及ぼすことができるのである[158]。他の親たちとのネットワークに参加すれば親の有効な青少年の監視能力を増進させることもあるが、われわれの知る限り、これは経験的に評価されているわけではない。残念であるが、子育てと子どもの交遊環境のあいだの共通部分の介入に関する調査研究はほとんどない。この問題は、介入の原理と方策を発展させるに当たって重要な領域である。
調査研究に関する文献、とりわけ最近の因果モデリング研究(causal modeling studies)の結果によると、非行少年とその家族に対する介入への多面的なアプローチの重要性が明確に裏付けられている。にもかかわらず、こうしたアプローチを実際に組み入れているプログラムはほとんどない。注目すべき例外としては、ヘンゲルガーとその同僚が、家族生活のコンテクスト(状況・背景)に取り組み、子どもの内面的な精神の面でも、システム的な面(家族、仲間、学校、近隣など)でも、青少年の機能不全に関連する複合的な領域を対象とするマルチシステミック家族療法(MST)を開発している[159]。この支援サービスは若者の自然な環境の中で実施され、在宅の家族保護モデルが用いられる。この療法の意図は、反社会的な行為に関連する家庭の他の重要なシステム全体において子どもの行動に変化を促すような方策を創出し、実行できるよう、親にスキルと資源を提供することである。このトリートメントは一定期間内に行われ、それぞれの家族に個別に配慮され、柔軟性も高い。
一連の対照群研究において、マルチシステミック家族療法(MST)は、都市および郊外の反社会的行為や少年非行に関する有効な介入、さまざまな文化的背景や社会経済的地位を持つ家庭に対する有効な介入として、一貫性ある効果的な結果を示している[160]。深刻かつ多様な非行加害者に対するMSTの長期的な影響に関する最近の研究は、犯罪行為や暴力の予防はもちろんのこと、対象となっている反社会的行為の相関者に対するその効果を説明している[161]。トリートメントは、家族メンバーの団結や順応性に対する認識を高め、目に見える支援を増進させ、対立や敵対心を減少させるとともに、若者の問題ある行動や親自身の精神病的な問題を親が報告する数も減少させる。最も重要なのは、個々のトリートメントを受けた若者に比べて、MSTを4年間継続している若者のほうが逮捕されることが少なくなり、逮捕されたとしても、深刻な犯罪を犯すことは著しく減少したことである。調査研究者たちはこの前提をそれぞれ独立的に評価したわけではないが、こうした好ましい結果は概してMSTの包括的な性質とともに、MSTが青少年と家族の自然な環境において提供されるためであると仮定した。
また、反社会的行為の複合的な決定要素を重視する必要性に対する認識の高まりは、さまざまに構成された、いくつかのプログラムの開発につながっている。その重要な例としては、ホーキンズとその同僚によって開発された「シアトル社会開発プロジェクト」が挙げられる[162]。このプログラムの目的は、反社会的行為を抑止するものとしての家族、社会、古くからの仲間との結びつきを強めることであり、これらの場のそれぞれにうまく関わっていけるようなスキルを開発することでこれに取り組んでいる。また、このプログラムを通じて、教室への介入や親業トレーニングなど体系化された構成要素における機会やスキル、精神の強化などを得ることができる。実験群と対照群の初期比較は、このプログラムは学校への順応性に関して大きな効果があることを示しており、早い時期の非行やドラッグ使用についても幾分かの減少が見られる。このプログラムは、さまざまな目標に向けて調整されたプログラムの前提と複雑さを明示している[163]。
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